プロテイン・ジェネレータ
ー今から数十年後の未来。食糧危機を迎えた地球にてー
記者「これが食糧問題を解決してくれる画期的な装置ですか?」
研究員「はい、栄養価の低い資源から栄養に富んだアミノ酸、さらに食用のタンパク質を高い効率で合成することができます。」
記者「それは素晴らしいですね。原理はどうなっているんですか?」
研究員「原料チューブから送られて来た原料を、このリアクターで分解して再合成するしくみになっていると思うんですが・・・残念ながら博士がなくなってしまった今、私にも”食用タンパク質を合成する装置”という事以外はよく分からないんです。」
研究員と記者の背後には、天井から伸びた巨大なダクトと、円筒形の大きな装置がそびえ立っている。
記者「お年だったとはいえ、惜しい才能を亡くしましたね・・・お悔やみ申し上げます。」
研究員「残念ですが、後を引き継ぐのが我々の使命ですからね。ただ、もう少し設計図などを残して下さる方だったら良かったんですが、なにぶん博士はマイペースな人でしたからねぇ。愛用されていたノートも我々には解読不能ですし。」
研究員はそういって苦笑した。
記者「天才とはえてしてそういう人物なのかもしれませんね。ところでこの機械ですが、実際に動かしてもらうことはできますか?」
研究員「ええ、もちろんです。ちょっと待ってくださいね。」
研究員はそう言うと、円筒形の大きな装置?プロテイン・ジェネレータのスイッチをONにした。
やがてわずかな振動とともに装置の前面に空いた穴から乳白色の粉末が流れ出し始める。
研究員「おっとっと。」
研究員はプラスチック製のカップにその粉末を少量すくい取り、素早くスイッチをOFFに戻した。
記者「その粉末がタンパク質ですか?」
研究員「はい。人間の成長に欠かせないタンパク質の粉末です。これを原料にして加工食料を生産すれば、現在の食料事情は大きく改善されるでしょう。」
記者「なるほど。このままでも食べられるんですか?」
研究員「ええ、もちろんです。成分分析は済んでますから。これでどうぞ。」
研究員はそう言うと、実験用の小さなスプーンを記者に手渡した。
記者「うん・・・なるほど。甘くない粉ミルクっていう感じですね。」
研究員「無添加ですからね。でも、味のある飲み物に溶かせば、加工しなくても美味しいと思いますよ。」
記者「ところで、原料にはなにを使っているんですか?」
研究員「農業用の無機肥料などです。ちょっと原料の流れが悪いのでタンパク質合成量が落ちているようなんですが、現在ダクトの点検を行っていますので、間もなく改善されるでしょう」
そこに、もう一人の若い研究員が慌てて走り込んできた。
後輩研究員「あ、せ、先輩。このタンパク質の粉って、もう食べちゃいました!?」
研究員「ああ、食べたよ。それがどうかしたか?成分は無害なはずだろう?」
後輩研究員「ええ、もちろん安全なんですが、そのぉ・・・」
若い研究員は言いにくそうに口ごもると、先輩研究員に耳打ちした。
<原料チューブがつながっていた先は、資源保管庫ではなくて、この上のトイレだったんですよ!>
研究員「・・・そ、そうか。わかった。君はもう下がっていい。」
先輩研究員は一瞬だけ動揺した様子だったが、すぐに毅然とした態度を取り戻した。
記者「で、ど、どうなんです?食べて大丈夫だったんですか!?」
研究員「ええ、もちろんですとも。ただ、先ほどこのタンパク質の原料について説明しましたが一部訂正があります。無機肥料ではなくて、天然有機肥料だったようです。」
記者「・・・・」
研究員「あ、よかったら、もう少し召し上がりますか?」
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