小太りおじさん
昔々、ある所に、おなかが大きなコブのように出っ張った小太りのおじさんが住んでいました。
おじさんが歩くたびに出っ張ったおなかがタプンタプンと揺れて、邪魔なことこの上ありません。
しかし、このおじさんは陽気で明るく、自分が太っていることなどあまり気にしていません。
そして同じ会社にもう一人、小太りなおじさんがいました。
こっちのおじさんは自分が太りやすいのは体質のせい、食事が不規則なのは会社のせい、といつも陰気でイライラして、回りにあたりちらしてばかり。
ある日、陽気な方の小太りなおじさんは、取引先の人に誘われてスポーツジムに行きました。
初めての場所で右も左も分からずウロウロしているうちに、いつの間にか周りに人が集まってきていることに気づきました。
どうやらエアロビクスのプログラムが始まる時間になったようです。
インストラクターがステレオのスイッチを入れると、なんとも賑やかなダンス・ミュージックが流れて来たではありませんか。
「おや、これは楽しそうだ」
陽気な小太りおじさんは、音楽と一緒に一生懸命体を動かして踊り始めました。
エアロビクスは初めてだったので周りの人についていけない部分も多々ありましたが、失敗を大げさにアピールすることで笑いを誘い、スタジオ内を大いに盛り上げました。
「おじさん面白いですね!」
そう言って喜んでくれる周りの人に誘われ、陽気なおじさんはその後も定期的にジムに通うようになりました。
ある日、陽気なおじさんが風呂上りに鏡で自分の姿を見ると、お腹の脂肪が劇的に減っていることに気づきました。
「おお!痩せてる!」
もはや小太りで無くなった陽気なおじさんは、ダイエット成功の喜びを会社の人にも語りました。
みんなが一緒に喜んでくれましたが、陰気な小太りおじさんだけは違いました。
「なに!エアロビクスで痩せただと!よし、奴に出来るなら俺だって・・・」
そう言って陰気な小太りおじさんもジムに通い始めたのです。
そして陽気なおじさんと同じようにエアロビのプログラムに参加しましたが、ちょっとついていけなくなると不満そうな顔をして動くのをやめてしまいます。
「教え方が悪い」「はじめからこんなの出来るはずが無い」「音楽が気に食わない」「足が痛い」
などと文句を言って、プログラムの途中で出て行ってしまうこともしばしばです。
心の暗い小太りのおじさんにとって、ジム通いはストレスの種になりました。
エアロビの代わりにサウナに入り、ストレスでドカ食い、ビールもガブ飲みするので、健康に良いはずもありません。
更に陰気で周りの雰囲気まで暗くする小太りのおじさんはジムの人たちからも何となく疎まれ、やがてジムに通うことをやめてしましました。
「陽気なおじさんと違って俺は環境に恵まれなかった。まったく世の中は不公平だ・・・」
そうつぶやく陰気なおじさんのお腹は、ジムに通う前の2倍に膨れ上がってしまったのでした。
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